「危機においてこそ真のリーダーが求められている」ことを、コロナは私たちに改めて気づかせてくれた。
東日本大震災のとき「危機のときこそリーダーの出番」と題して、ビジネスコーチ(株)代表取締役の細川馨さんが書いている。
危機のときこそリーダーの真価が問われる
人によっては「なんでこんなときに自分がリーダーなんだ」「運が悪い」と感じる人もいるのではないだろうか。わたし自身は、リーダーは危機のときこそ求められる存在であり、自身の役割を果たすべきだと考えている。
何事もうまくいっているときには、実はリーダーはそれほど必要とされていない。リーダーがとやかく言わなくても、現場でうまく回り、業績も順調に伸びていくものである。ただし、そういう平穏なときでも適切な危機感を持ち、不慮の事態に備えておくのがリーダーとも言える。
リーダーの真価が問われるのは、このような危機、緊急の事態なのである。
リーダーの役割は、目標を設定し、その方向に向かって組織を変革させていくことである。危機のときこそ、リーダーが求められているのであり、リーダーの哲学や真価が問われる。「危機がきた。ここぞ、自分の出番だ」そのような気構えを常日頃から持っておく必要がある。
何よりもスピード
危機が起きたときに、リーダーにとってまずもっとも必要なものは何か。「何よりもスピード」である。火事が起きたと考えてほしい。3秒後に行動するか、3分後に行動するか、3時間後に行動するかで結果は大きく変わる。危機が起きた場合、やはりスピードが重要である。
その際にどんな手順を踏むべきか。次の手順である。
(1)現状把握
(2)トップのアナウンス
(3)専門家を集める
(4)状況を逐次報告する
第1に現状把握である。詳細に把握することにあまりこだわらず、大まかに状況を把握する。今回の震災のような場合、生きるか死ぬかの状況であり、そのときには、なぜ地震が起きたかなどの分析はすぐには必要なく、命を守るために現状を大まかに把握することが大切である。企業活動で考えた場合も同じで、何が起きているのか、現状の把握に努める。
第2に、現状が大まかに把握できたならば、アナウンスをする。これは社外に向けても社内に向けても行う。社外に対しては、何が起きているか、現状を把握して入手した状況を包み隠さず、明らかにする。謝罪すべきところがあるならば謝罪する。そして、今後の手順などについて説明する。社内に対しても同じく現状について知らせるとともに、冷静になるようにアナウンスすることが大切である。
今回の福島第一原子力発電所の事故を見ていると、トップがメッセージを発するということがまったく後手にまわってしまっている。事故が発生しても東京電力トップの顔が全く見えない。これは致命的なミスである。
第3に専門家を集め、現状を打開する根本的な解決策を探る。現在は情報が錯綜していて、それがさらに混乱を大きくしている。情報を統制し、コントロールする必要があるのではないだろうか。
第4に、状況を逐次報告することである。これはリーダー自身が行ってもいいが、スポークスパーソンを立てて行っても構わない。危機のときには状況は刻一刻と変化しており、それをつぶさに把握し、できるだけ多く報告をしていくことが大切である。
すべて自分でやろうとするな
リーダーにひとつ伝えたいことがある。
それは、「自分一人ですべてを解決しようとするな」ということである。リーダーのすべきことは、専門家を集め、彼らの英知を集め、状況を打開するための道筋を立て、それを実行に移すことである。多くの人の力を借りていいのである。
今回の大震災の場合、行政が行うのか、自衛隊や消防庁に依頼するのか、早い段階でその道筋を立てる必要があったかもしれない。
危機が起きたら大まかに状況を把握し、実務の専門家をすぐに集めて改善策、戦略を出させ、それを実行させる。誰が責任者になり、誰を応援して、どういう救済を行うのか――このような道筋をつけてあげる必要があるだろう。
また、状況が刻一刻と変化する中で、戦略を変更することも出てくる。この震災で言うならば、被災されている人をケアするチームと、生存者を捜索するチーム。大変気の毒ではあるが、どこかの段階で、このチームの比率も変えていかなければいけない。全体を把握しながら、その指示をリーダーは出していくのである。
企業で危機が起きた場合もリーダーに求められることはまったく同じである。問題が起きたら、まずはすぐに大まかに現状をつかみ、アナウンスする。専門家を集め、問題を解決する打開策を提示し、実行する。これを1日くらいでやる必要があるだろう。
国家を揺るがすような事態を日本は乗り越えられるだろうか。海外のメディアでは、日本を応援し、賞賛するニュースも多いと聞く。これだけの天然災害にあったにもかかわらず、物資を求めて順番を持って並び、助け合い、強盗や略奪もほとんど起きない。復活できる力を国民は持っていると思う。
ただし、必要なのは、リーダーである。これまで話したことを実行し、この国が進むべき道筋、ビジョンを示すことができる、真のリーダーが求められている。
現場にはすばらしいリーダーがたくさんいるとわたしは思っている。人には知られていない、立派なリーダーがいる。だから、日本は復興していくはずだと確信している。組織を、日本を変えていく、真の国のリーダーを心の底から望んでいる。
コロナ感染拡大の今、これからの人生を生きていくにあたり、あらゆる場面において人々のリーダーとなるべく、細川さんのご指摘を肝に銘じたい。
小林 博重