覆水盆に返らず

「覆水盆に返らず」という諺がある。「一度起きてしまったことは二度と元には戻らない」という意味だ。これは中国の伝説の一つから生まれた諺だ。
太公望が周に仕官する前、ある女と結婚したが太公望は仕事もせずに本ばかり読んでいたので離縁された。太公望が周から斉に封ぜられ顕位に上がると、女は太公望に復縁を申し出た。太公望は水の入った盆(鉢)を持ってきて、水を床にこぼし、「この水を盆の上に戻してみよ」と言った。女はやってみたが当然できなかった。太公望はそれを見て、「一度こぼれた水は二度と盆の上に戻ることはない。それと同じように、私とお前の間も元に戻ることはあり得ないのだ」と復縁を断った。
最近、人との間でちょっとしたトラブルがあった。
世知がない世の中なのだろう。自分の都合で、自分の思う通りにならないと人のせいにしてその人を責める。当に自己中の世界だ。それが常軌を逸したメール攻勢で人を責める。そんな人は私に対してだけではないだろう。一人ならず同様な行動をしていると思われる。
私は人と人をつなぐことを生業にしているので、信頼がおけない人とは遠く距離を置くことになる。敢えて自ら動くことでトラブルを起こすことはしないようにしている(還暦を過ぎたからこんなことを言っているが、それまでは若気の至りがしょっちゅうだった。ビジネスマッチングを生業にするようになって、そのことを痛感してから、私の対応は変わってきたように思う)。
一度ならず傷つけられた心の傷は消えることはない。すり傷なら日が経てば消えてなくなるが、メスを入れて縫った傷はその跡が薄れることはあっても消えることはない。まして、心の傷はそれ以上だ。決して消えることはないのだ。人間とはそんな繊細な動物だ。 いくら謝罪されたとしても、少しは心が癒されたとしても決して消えることはないのだ。当に「覆水盆に返らず」だ。
私の仕事柄、このことは人に関しては、ビジネスの基本中の基本として、頭に叩き込んでおかなければならない。そのような人と付き合うのは遠慮するのが一番だ。
ダボハゼで鳴らした私だが、還暦も過ぎて道を極める入口に立とうとしている今、ビジネスに対するチャレンジ精神はいざ知らず、人との関係は「君子危うきに近寄らず」でなければならないと痛感するこの頃だ。
小林 博重
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